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外れ馬券と経費

先々週のことになりますが、外れ馬券を経費と認める最高裁判決が出ました。エンターテインメント法分野に高い関心を持つ弁護士として、いや、20年来の競馬ファンとして注目すべき事件でしたが、ようやく最高裁で決着しました。

事件を簡単に説明すると、ある競馬ファンが3年間で約28億7000万円の馬券を購入して(このうち、当たり馬券の購入費用は約1億1000万円、残りは外れ馬券の購入費用)当たり馬券により約30億1000万円の配当を得て差額約1億4000万円を儲けたというケースで、課税対象となる所得は配当から当たり馬券購入費用のみを引いた約29億円なのか(外れ馬券の購入費用は経費と認められない)、配当から外れ馬券も含めた全馬券購入費用を引いた約1億4000万円なのか(外れ馬券の購入費用も経費と認める)が争われたというものです。

最高裁は、後者の見解をとり、外れ馬券の購入費用は経費になるという判断をしました。もっとも、一般論として外れ馬券が経費になると認めたのではなく、今回の被告人はかなり機械的な方法で大量に馬券を買っていた(普通の人が馬券を買う場合には馬や騎手をみてレースを予想しますが、そういった買い方をしていなかった)ため、1回のレースごとに馬券の購入を分解して観察するべきでなく、外れ馬券も含めた全馬券を経費とみるべきだと判示しています。後者の見解というよりまた別の見解ですね。外れ馬券が経費になるという結論自体は、一般的な感覚、特にギャンブルをする人の感覚からすれば「まとも」だと思いますが、法的観点からすると実はそのようなまともな結論をとるのはとても難しい事案でした。そこで、最高裁はその中でもなんとか妥当な結論を出そうとして上記のような見解をとったのだと思います。

一競馬ファンとしては、今回のケースだけとはいえ、最高裁で外れ馬券が経費になることを認めてくれたのは嬉しいことではあります。しかし、この判決も、他の2つの見解にも、以下に述べるとおり問題があります。

まず、当たり馬券の購入費用のみが経費だという検察側の主張は、常識的な感覚に照らし明らかに不合理です。馬券の購入は当たろうが外れようが馬券による儲けを得るための投資なのですから、結果として当たるかどうかにかかわらず同じ取扱いをしてほしいというのが一般的な感覚だと思います。

しかし、だからといって外れ馬券全てを経費としてしまうのも問題があります。週末の午後4時を過ぎた競馬場には外れ馬券は至る所に捨てられていますから、これを拾い集めて経費にして経費を水増しするということが簡単にできてしまいます(馬券は無記名なので誰が買ったかを後から調べるのは困難です)。下手をすれば外れ馬券を安く買い取りますなどという商売も横行しかねません。

とはいえ、最高裁のように、今回のような特殊な買い方に限って外れ馬券を経費と認めるのであれば、(競馬ファン全員が馬券収入を申告すると仮定すると)このような買い方をした方が経費の観点を含めると絶対に得になりますから、皆このような機械的な購入の仕方をすることになってしまいます。そうなると、血統、馬の調子、調教、騎手、コース、馬場状態、過去のレースデータなどから1つのレースを予想するという競馬本来の魅力、醍醐味が失われることになりかねません。馬の状態を見極めるパドックも、競馬新聞等の情報誌もいらなくなってしまい、競馬という興行自体が上手く回らなくなってしまうかもしれません。そもそも、同じ外れ馬券なのに、馬券の買い方次第で経費になったりならなかったりするというのはおかしいですし(最高裁はそこまで言っているわけではないですが、判示を前提にするとそういう解釈ができてしまいます)。

このように、どの見解によっても問題があるため、結局現状では、よく言われているように当たり馬券の配当を非課税にする以外に合理的な解決方法はないのではないかなと思います。いずれにしても、競馬ファンを白けさせる法解釈や制度の運用だけはされないよう願うばかりです。

 

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