テレビ業界の労務管理⑤(芸能プロダクション)

前回も芸能プロダクションのスタッフの労務管理の難しさを指摘しましたが、労働時間の把握以外にも難しさがあります。

多くの芸能プロダクションでは、タレントが税金対策のために会社を持っていてプロダクションと系列会社のような形にしています。タレントはマネージャーやスタッフに、プロダクションではなく自身の会社の経理の仕事なども任せています。

しかし、タレント個人が持っている会社と経理を担当するそのスタッフとの間には雇用関係はありません。そのスタッフはプロダクションと雇用契約を結んでいるに過ぎないのです。したがって、そのスタッフはタレント個人の会社のことまでしなければならない訳ではないのですが、なんとなくタレントの指示にはしたがうものという頭があるので仕事をしているだけなのです。プロダクションの方も、スタッフがタレント個人の会社の業務を行うことについては特段の意識は持っておらず、むしろ積極的に行わせている場合もあります。

しかし、上記のような関係は、タレントとスタッフの関係が上手くいっているから成り立っているにすぎません。関係性が少しでも悪くなれば、たちまち成り立たなくなるでしょう。成り立たなくなれば、タレント個人が持っている会社は誰が管理するのでしょう。タレント個人は仕訳など、経理の仕事を自らすることはできるのでしょうか。

このような問題が顕在化する前に、スタッフの業務内容につき正確に把握し、整備しておくべきです。プロダクションとの雇用契約の中に、タレントの会社の管理を入れることも可能です。正しい整理を行い、スタッフの業務が無理なく円滑に回るようにしましょう。

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テレビ業界の労務管理④(芸能プロダクション)

SMAP解散ジャニーズ事務所の問題(真偽は不明ですが事務所移籍の問題)、先日の清水富美加の出家騒動など、テレビの世界は番組制作の現場だけでなく芸能プロダクションも多くの労務管理上の問題点を抱えているようです。これだけ頻繁にプロダクションとタレント等の問題が報じられると皆が関心を持つので、今後プロダクションの労務問題はさらに頻繁に起こるのではないかと予想されます。

 おそらくほとんどの事務所では、タレントとの契約は雇用契約ではなく業務委託契約などの形をとっており、雇っているのではなく1人の個人事業者として扱っているのではないかと考えられます(そうでなければ散々働かせて月給数万円というのでは最低賃金を下回り違法となってしまいます)。しかし、このように業務委託契約の形態をとっている場合でも、働き方の実態が一般的な労働者と変わらない場合には、雇用契約をしていなくてもそのタレントは「労働者」として扱われます(実際に昨年厚生労働省労働基準局が同旨の文書を各種芸能関係の団体に送付しています)。そうすると、清水富美加が実際にどうであったかは分かりませんが、仕事を選べない若手の芸人、モデル、アイドルなどは、事務所の指揮命令に従って仕事をしていますので、多くのケースで「労働者」と判断されることになるのではないでしょうか。そうなると、仕事を選べないタレントは選べるタレントよりも圧倒的に多い訳ですから、多くのプロダクションで労使トラブル、法的紛争が多発するリスクがあるということです。芸能界は人気商売ですから、タレントとの法的紛争はプロダクションにとって即、致命傷になる可能性もあります。そうなってしまう前に、今のうちにタレント(マネージャーらスタッフも)の働かせ方や待遇を見直し、 労務管理の体制を整え、紛争リスクを抑えましょう。

 

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テレビ業界の労務管理③

長時間・不規則勤務が当たり前のテレビ番組制作の現場では、スタッフの勤務時間を管理することは困難です。理論上は無理ではないかも知れませんが、実態を知っている者からすれば、生放送の帯番組、スタジオ収録のみでVTRを全く挟まない番組、取材のない番組(料理番組など)以外は不可能と言い切っても良いです。このようなテレビ番組制作の特性に着目して、労働基準法には、スタッフの労働時間を裁量性とする制度が設けられており、専門業務型裁量労働制といいます。

 

専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるものであり、その対象となる専門的業務とは、研究開発、情報処理システムの分析・設計業務、デザイナー、我々弁護士をはじめとする各士業、そしてテレビのプロデューサーやディレクター等です。

この制度を用いれば、スタッフの勤務時間は、各自の裁量に委ねるということとなり、会社が勤務時間を管理する必要がなくなります。スタッフ側からみれば、自由な時間に仕事をすることができますし、会社側からみれば上手く用いれば残業、深夜、休日の割増賃金を抑えられるかも知れません。

 

しかし、この専門業務型裁量労働制は、テレビ番組制作の実態に照らすと、採用することはほぼ不可能です。

「裁量」労働制なわけですから、スタッフ側に勤務時間についての裁量が与えられなければなりませんが、まずADであればディレクターの命令を受けてなんぼな訳ですから、ディレクターが働いている時間は常にいなければならないので、勤務時間の裁量などあるはずがありません。次に、ディレクターは編集作業の過程でプロの編集スタッフ、美術スタッフ、音効さんらと一緒に作業を行う必要がありますし、(私がテレビ業界にいた時代と比べると、ほとんどの編集作業が自宅のパソコンでできてしまうくらい進化しているものの、それでもこういった作業が全く存在しない訳ではありません。)、プロデューサー、作家や演出家のチェックを受けるので、実際にはほとんど裁量はありません。プロデューサーにしても、ディレクターと立場は違うものの自由な時間に勤務することなどできません。

このような実態に照らすと、正直言って、専門業務型裁量労働制の業種の中になぜテレビのディレクターやプロデューサーが含まれているのか全然分かりません。

テレビの現場は、専門業務型裁量労働制が実態に見合っていない制度であることを理解しているので、専門業務型裁量労働制をとらずに対応している会社が多いのが現状です。

 

このように、テレビ番組制作においては、専門業務型裁量労働制を用いることは難しいので、やはり通常会社と同じような勤務時間管理が求められます。

冒頭に述べたとおりこれは非常に難しいのですが、だからこそ現場を多少なりとも知っている私のような者が取り組まなければならないとも思っています。

具体的には、取材・編集の場面毎に考えなければなりませんが、せっかくこれだけスマホが普及し、グループLINEなど便利なものがある(記録にも残るし、既読・未読が分かる)ので、プロデューサー、ディレクター、ADの間の指揮命令、具体的な進捗の報告、現場で作業が終了し解散する場合の報告、勤務時間外には逆にそのグループLINEを用いないようにするなどして、全て一本化して行うというのが一つのヒントだと考えています。

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弁護士によるマンション管理

 

最近マンション管理組合の運営をめぐる法律相談を受ける機会が非常に増えております。紛争数自体が増加していることと、マンション管理を専門分野に掲げる弁護士事務所が少ないため(インターネットでマンション紛争に強い弁護士を探そうとしても、専門サイトを設けて解説している事務所は当事務所を含めて数件程度しか見つかりません。)でしょう。

マンション管理組合の運営をめぐる法的紛争については、このブログで具体例を挙げて解説しており、中には裁判の事例なども紹介していますが、実際のところはよほど違法性の強い案件以外では、裁判などの法的手段をとるのではなく、無関心な区分所有者が運営に関心を持つこと、理事会が管理会社ではなく区分所有者、マンション管理組合自身の方向を向いて運営を行うという、関係者の意識の変化を促すことが紛争解決のために必要になってきます。マンション管理組合の運営は、最終的には集会の決議という多数決の問題に帰着しますし、仮に運営の過程で少々の違法や不当な事象があっても、無関心な区分所有者ではその監視はできませんし、正当な抗議をしても少数派の意見であっては簡単に潰されてしまい、裁判を起こすとなると費用倒れになるなど、責任追及が難しいからです。

このようなマンション紛争の実態を踏まえ、当事務所では、無関心な区分所有者に向けて、現状の問題や放っておくと将来の価値下落を招くことなどを面談や書面で説明したり、顧問先管理組合に対しては、セミナーの開催や集会(総会)時に合わせて区分所有者対象に無料法律相談会を実施するなどして、少しでも区分所有者の関心や運営に関する理解が高まるよう、裁判や内容証明といった弁護士プロパー業務以外の様々なサービスを行っております。

長期にわたり運営する理事会の体制が変わらず、ほとんどの区分所有者は運営に無関心というマンションでは、修繕積立が上手くいっていなかったり、管理費が正しい使われ方をしていないなどということがよくあり、その結果、管理が行き届かず必要な修繕ができずに価値が下落してしまっているところもあります。そのような事態にならないよう、ご相談30分3,000円)や顧問契約(月額15,000円~。通常は区分所有者1人あたりの負担が月額100~150円になるように設定)をしていただいている管理組合には、今後も区分所有者の意識を高められるよう様々な工夫を行っていきたいと思います。

 

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神奈川労務安全衛生協会藤沢支部セミナー

今日は神奈川労務安全衛生協会藤沢支部にてセミナー講師を担当させていただきました。

最近の労務問題事例を紹介しつつ労務担当者のとるべき対応を考えるという内容であり、昨年注目された長澤運輸事件などを取り上げました。

この事件では定年後の再雇用の際に当該従業員の給与を2割から3割程度減額することが労働契約法に反するかどうかが争われました。おそらく多くの企業で、再雇用の際には給与を減額しているのではないかと思いますが、第一審の東京地裁判決は、再雇用の前後で同じ仕事をしていて、地位も変わらないのに2割以上も給与を減額するのは違法と判断しました。これに対し控訴審の東京高裁は、他の企業の減額割合の統計資料をもとにする等して、この程度の減額であれば違法ではないと判断しました(現在この事件は最高裁で争われています)。

多くの企業にとって第一審の判断は衝撃的だったと思います。法改正で65歳までの再雇用が義務付けられた上に、待遇面もこれまでと大きく変えてはいけないというのは、企業にとっては相当に厳しい判断です。高裁で逆転されたものの、今後も東京地裁のような判断がなされる可能性は十分にあるので、企業は対策を講じなければなりません。

まだ法律も判例も固まっていないので確信をもった助言はできませんが、現状では、企業は再雇用の前後で当該従業員の業務内容を変更する、役職や責任を変更するなど違いを設ける、再雇用の前後での待遇差を少なくとも長澤運輸事件のケースよりも小さくする(2割以内くらいにとどめる)などの対応が求められそうです。固まっていないからこそ危険も多いので、再雇用の問題に直面されている企業の皆さまは、お早めに社会保険労務士や弁護士にご相談いただき、一緒に対応を考えていくことをおすすめいたします。

 

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テレビ業界の労務管理②

私が元ADということもあり、当事務所ではテレビ業界(番組制作会社や芸能プロダクション)の案件や顧問業務を取り扱っております。昨年はテレビ業界の労務管理につきセミナーを開催させていただいたりもしたので、働き方の特殊なテレビ業界の労務管理についてしばらく連載していきたいと思います。今日はスタッフの職務専念義務についてです。

通常の雇用契約では、就業規則等でスタッフは勤務時間中には職務に専念しなければならないという職務専念義務が定められています。会社はスタッフに対価として給料を支払っているのですから、スタッフが勤務時間に職務に専念するというのはごく当たり前のことです。ところが、テレビ業界の場合は当たり前ではありません。ディレクターは食事に出かけるとなかなか帰ってこない、疲れ切ったADはトイレで寝ている(テレビ局には「トイレで寝ないでください」という貼紙がされていたりします)、リサーチ班はヘッドフォンで音楽を聴きながら仕事をする…ということが当たり前に起きています(もちろんそうではないケースもありますが、業界の雰囲気はこんな感じです)。これでは職務専念義務は全然果たされていないですよね。

こうなってしまいがちなのは、長時間勤務が当然の前提になっているので、勤務しながら休むという感覚が染みついているからではないかと考えられます。スタッフを管理する側も、昔は同じような経験をしているはずなのでやはり感覚が染みついているのです。

また、テレビ業界には、フリーのディレクターなど、雇われていない業務委託スタッフが多いというのも挙げられると思います。業務委託スタッフは労務管理される立場になく、職務専念義務を負っていないので、自分が任された仕事をしている限りは好きな時に好きなことをしていてよいのですが、これを雇われているスタッフも真似していたり、管理する側も誰が業務委託で誰が雇われなのか把握していなかったりするのでこのようなことが起きるのです。

雇われスタッフと業務委託スタッフが混在し、同じ仕事をしているため、雇われスタッフのみに職務専念義務を果たさせるというのは簡単なことではありませんが、雇われスタッフには会社は高い残業代を支払わなければならないのですから、その対価として勤務時間には職務に専念させるということを意識するべきです。まずは雇われスタッフがどれだけ職務に専念しているのかを把握し、職務専念義務違反がある場合には指導・注意を行うという体制を作ることから始めてみていただければと思います。

 

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神奈川労務安全衛生協会講演

一昨日神奈川労務安全衛生協会小田原支部の法令講習会で労務問題に関するセミナーを行いました。平塚、厚木、藤沢に続きこれで4支部目です。

このセミナーでは毎回過去に私が担当した紛争事例を扱うのですが、今回扱った事例の中では、食品工場で起きた事故の事例が最も反響がありました。安全配慮義務との関係では工場作業の安全マニュアルはどの程度整備すれば良いのか、作業時に従業員側にも落ち度がある場合の過失相殺の割合など、かなり具体的な話まで扱うことができました。小田原はかまぼこや干物が大変有名なので聴講者の方々にとって食品工場の事故というのは現実的に起こり得る問題と感じられているからでしょう。

 

今月下旬には藤沢支部にて別のテーマでセミナーを担当させていただきますので機会があればこちらも紹介したいと思います。

 

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